命の旅立ち

小さい頃、階段から落ちて、こめかみを7針縫うケガをした。

階段の段差を病院の部屋に見立てて、ぬいぐるみの患者さんたちを寝かせて、お世話していたのだ。

転げ落ちて階段下で起き上がった時、目の前に広大な美しい宇宙が広がって見えた。

その時にふと、人は1人で生まれて1人で死んでゆくのだな、とはっきりと理解した。

それから死ぬことを考えると、怖いようで怖くなくて、なんとも言えない不思議な感覚になる。

死の先には、あたたかな懐かしい存在たちに逢えるから、怖くない。

でも死の瞬間には、この世での慣れ親しんだ人たちや、自分の肉体と別れる時の怖さがある。

それは、もしかしたら未知のことを体験する前の怖さなのかもしれない。

例えば子どものお使い。

初めての一人旅。

初めての一人暮らし。

そしてこの世に生まれてくる時。

生まれてくる時に泣くのは、初めての世界への旅が怖くて泣くのだと聞いたことがある。

死ぬ時も、同じなのかもしれない。

そう思うと、少し死ぬことが怖くないかな、と思える。

誰でも、初めて体験することは少し怖い。

死とは、この世に生まれてくることと同じように、言葉そのまま、この世から別の世界への旅立つ、ということなのかもしれない。

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